香葉村真由美先生は、現役の小学校の先生です。女性版“金八先生”と呼ばれるほど、子どもたちと熱心に向き合う方で、現在は小学校で子どもたちに教える一方で、全国の学校や施設などに請われて講演も行っておられます。今回、ご縁があって毛里田こども園創立60周年記念講演にも登壇していただけることになりました。 命がけで子どもたちと向き合ってきた実体験から語られるお話は、感動的であり、また衝撃的でもありました。
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先生は講演の中で、子どもたちに伝えていきたい3つのことをお話しされました。
1つ目が、「自分を信じる、自分を大好きになること」です。
先生が担任をされた小学校2年生のクラスでのお話です。1年生の時の彼らは、パワーが有り余って暴れたり、ケンカしたりしているのに、自分の長所や夢を聞いても答えられない自己肯定感の低い子どもたちでした。先生は、そんな子どもたちを挨拶から変えていこうと「キラキラ朝礼」を始めたといいます。
先生の「キラキラ朝礼を始めます」の言葉に子どもたちは「イェーイ!」と続きます。アップテンポのリズムにのって、大きな声で挨拶を練習し、自分たちの夢を語ります。「宇宙飛行士になりたい」「看護士になりたい」「ありがとうと言われる人になりたい」。そして仲間の発表に、子どもたちはまた「イェーイ!」と大きな声で応えます。こうした朝礼を続けるうちに、子どもたちは、「できる」が自分を信じ、好きになる魔法の言葉だと気づいていくのです。
また、「心のビー玉」のお話もありました。子どもたちが誰かに優しくしたり、いいことをしたりすると、「心のビー玉を入れるよ」と言って、ビー玉を瓶の中に貯めていくのです。すると、今までは「○○ちゃんにこんなこと(いじわる)をされた」と言いつけにきていた子どもたちが、「○○ちゃんはこんないいことをしている」と教えにくるようになりました。
あるお子さんは、「こんなに優しさを見つけることができたことが自信になった」と言ったそうです。自分を信じ、自分が好きになると、子どもたちは大きく変わります。これまで気づかなかった能力がぐんと伸びていくこともあります。
そして、伝えたいことの2つ目は、「いのちを大切にする」です。
お父さんを交通事故で亡くした生徒さんとの会話をきっかけに、先生はいのちの授業をしようと決めます。『いのちのまつり』という絵本を使いながら、両親がいて、祖父母がいて、その先にもご先祖様がいて、その中のたった一つのいのちがなければ生まれてきていなかったと子どもたちに話します。そして、「いのちがつながっていくというのは、ただつながっていくだけじゃないんだよ。いのちを大切にする思い、いのちを守っていこうとする思い、愛しいとする思いがつながっていくこと」と、先生は子どもたちと一緒にいのちについて考えていきます。
講演で先生は、先生にいのちを考えるきっかけを与えた一人の少女のこともお話しされました。先生が初めて担任したクラスの生徒さんで、卒業後も親交があったそうです。その彼女が、ある日学校に先生をたずねてきます。そして彼女は、とても辛い目にあって自傷行為を始めたこと、さらに、そんな彼女の心の支えとなっていた人まで事故で失ってしまったことを先生に話し、その数日後に自らのいのちを断ちました。
先生は、「私は彼女に頑張らなくちゃダメだよと言ったけれど、本当はリストカットをして、薬を飲んで、それでも生きてきた自分を、よく頑張って生きてきたねと抱きしめてほしかったのだ」と思い悩み、自分自身も心の病気になってしまったそうです。
ベッドから起き上がれない日々を送っていた先生を救ったのは、娘さんたちの「寝たきりでもいい。生きているだけでいい」という言葉でした。先生はこの経験から、「人は生きているだけで価値がある。子どもの本当の気持ちと向き合う教師になろう」と決心したのです。
そして先生が伝えたいことの3つ目が「愛をもって生きていく」ことです。
小学校6年生の担任をされていたときの生徒さんに、声を失ったお子さんがいました。小さいときにおばあちゃんに預けられ、両親に置き去りにされたショックで声が出なくなってしまったのです。そして、声が出ないことを理由に、ずっといじめられていたそうです。
先生は、クラスのみんなに彼女の声がでない理由を話し、彼女と話す方法をみんなで考えてほしいと伝えました。すると、子どもたちはメモを通して会話を始め、3ヵ月後、彼女はクラス中のみんなとメモで会話ができるようになりました。
さらに驚いたことに、小学校の卒業式の日、彼女は自分の名前を呼ばれた時に「はい」と小さな声で返事をしたのです。クラスのみんなも、おばあちゃんも泣きました。
「人は誰か一人でも自分のことを信じ支えてくれる人がいると強くなれる」と先生は言います。おばあちゃんやクラスの子どもたちの姿勢から、「愛をもって生きていく」ことの大切さを教えられたと語りました。
講演の最後に、先生の大好きな言葉を紹介してくださいました。
「国は人がつくる。人は教魂がつくる」という言葉です。
教魂は、教えゆく者の魂です。これは先生だけでなく、お父さん、お母さん、すべての人を指しています。先生は「これからも自分の魂を鍛え、たくさんの人を育てていきたい」と講演を結びました。
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私たち大人は、子どもにとっての教えゆく者だと思います。私自身、子どもを信じ支えられる人でありたいと改めて強く思うご講演でした。このお話が、お子さんとの向き合い方を考えるいい機会になることを願っています。香葉村先生、ありがとうございました。
平成28年9月3日
毛里田こども園園長 長谷川俊道